0.019 (第1話)

「もう2回目か……ごめん…またさよならになっちゃって…。次こそは……」

 

そうつぶやいて、彼は高層マンションの屋上から、空(くう)に一歩踏み出した。 床に支えられていた両足は、その支えを失った。なくなった。全部。

 

 

秋。僕は19歳になった。大学一年生。

「おいコンダ!次の授業いっしょだったよな?行こうぜ」  

「おう、心理学概論だっけ。あの教授、毎回ワタワタしてておもしろいよな」

「それな!」

僕は今田真琴。大学自体は第二志望だった場所で、入学当初は第一志望校に未練こそあったが…いま現在、学科での生活は充実していて、今ではこの大学にいる自分のことも、悪くないと思っている。

 

心理学概論の授業が終わった。友達と別れ、大学の正門に向かっていると、僕は、白昼夢のような、朧げな、しかし変に現実味を帯びた、奇妙な感覚に襲われた。

 

足元がぐらつく。下を見ると、そこにはもう何の支えもない。落ちていく。瞬く間に地面が近くなっていく。怖い。怖い。本当は怖い。本当はこんなこと。したくないのに。でも、でも、こうしないと、僕はーーーーーー

 

気を失った。

そこからはあまりよく覚えていないが、気がつくと大学の保健室にある、清潔でシンプルなベッドに、体を横たえていた。

 

(続く)