0.019 (第8話)

……………え?つまり、つまり……僕は…… 「日本人の寿命はだいたい80歳くらいよね。もうわかった…?」 1回やり直した時点で、80歳から30歳引いて、つまり50歳までしか生きられない………。 そして…2回目……50歳から30歳引いて………。 「母さんね、もうあんたに会えないと…

0.019 (第7話)

そこから母さんは、とんでもない事実を、口にし始めた。 おおよそ、僕自身がそんな経験をしていたとは思えないような。そんな事実。僕の経験という事実。 僕が人生を二度やり直したこと。ここまでは自覚があったことだが。 人生をやり直せる人間は、全世界の…

0.019 (第6話)

昨夜は一睡もできなかった。当たり前だよな。ベッドから一歩も外に動き出せず、僕はうずくまっている。 どうして思い出してしまったんだろう。いや、逆だ。どうしていままで何も知らずに過ごして来られたんだろう。 いま思い出したということは、思い出す必…

0.019 (第5話)

ここは…どこだろう…暗くて何も見えない……。 僕はいつの間にか、真っ暗で周りが見渡せない、どこか冷たくて気味の悪い場所に置き去りにされていた。 ここはどこなのだろう。とりあえず歩いてみないと……。 と、その瞬間。 床が無くなって。僕は、空(くう)に…

0.019 (第4話)

落ちていった。 母さんは眠りに。僕はどこに? わからない。 派手に気を失って保健室に運ばれ、それからちょうど1週間経った。 先週と同じ、よく一緒に授業を受ける友達と、心理学概論のいつも慌てている教授の話を、ぼーっと聞いている。 今日は月末、30日…

0.019 (第3話)

僕の母は、重い病を抱えている。 不治のものではないけれど、細々とパートの仕事をしながら、それ以外はほとんど家で座って本を読んでいるか、眠っている。 「母さん、ただいま」 家の玄関に入り、少し音量を抑えた声で僕は母さんに挨拶を投げかけた。が、今…

0.019 (第2話)

「…またあの夢…?だった……」 僕はベッドから脚を下ろしながら、独り言をこぼした。 あの、焦燥に駆られて、自分自身に恐怖を強いるような、そんな感覚。 目が覚めるとすぐ内容を忘れてしまって、誰かに相談するのは難しい。 妙にリアルなその感覚だけが、脳…

0.019 (第1話)

「もう2回目か……ごめん…またさよならになっちゃって…。次こそは……」 そうつぶやいて、彼は高層マンションの屋上から、空(くう)に一歩踏み出した。 床に支えられていた両足は、その支えを失った。なくなった。全部。 秋。僕は19歳になった。大学一年生。 「…

檳榔子色のビー玉のように

檳榔子(びんろうじ)色のビー玉のように、揺れた彼女の瞳を、虚ろに追いかけるの。 さっきね、可愛い茶系のワンピースを着ていてものすごく細くて色が白くて背が高くて髪がサラサラのストレートでツインテールをしている女の子が歩いて来てね、ふと顔を見たら…