0.019 (第1話)

「もう2回目か……ごめん…またさよならになっちゃって…。次こそは……」

 

そうつぶやいて、彼は高層マンションの屋上から、空(くう)に一歩踏み出した。 床に支えられていた両足は、その支えを失った。なくなった。全部。

 

 

秋。僕は19歳になった。大学一年生。

「おいコンダ!次の授業いっしょだったよな?行こうぜ」  

「おう、心理学概論だっけ。あの教授、毎回ワタワタしてておもしろいよな」

「それな!」

僕は今田真琴。大学自体は第二志望だった場所で、入学当初は第一志望校に未練こそあったが…いま現在、学科での生活は充実していて、今ではこの大学にいる自分のことも、悪くないと思っている。

 

心理学概論の授業が終わった。友達と別れ、大学の正門に向かっていると、僕は、白昼夢のような、朧げな、しかし変に現実味を帯びた、奇妙な感覚に襲われた。

 

足元がぐらつく。下を見ると、そこにはもう何の支えもない。落ちていく。瞬く間に地面が近くなっていく。怖い。怖い。本当は怖い。本当はこんなこと。したくないのに。でも、でも、こうしないと、僕はーーーーーー

 

気を失った。

そこからはあまりよく覚えていないが、気がつくと大学の保健室にある、清潔でシンプルなベッドに、体を横たえていた。

 

(続く)

 

 

 

檳榔子色のビー玉のように

檳榔子(びんろうじ)色のビー玉のように、揺れた彼女の瞳を、虚ろに追いかけるの。

 

さっきね、可愛い茶系のワンピースを着ていてものすごく細くて色が白くて背が高くて髪がサラサラのストレートでツインテールをしている女の子が歩いて来てね、ふと顔を見たら、思わず声が出るほど綺麗だったの、まるでお人形さんみたいに均整の取れた美しいお顔だったの、どこか苦しみに濁ったビー玉のように、魅惑的な瞳をしていた、

 

私は疲れからか脳の一部がパンクしたような感覚を持ち歩いていて、何も考えられずただ漠然と死んでしまいたいと思いながら歩いていたのだけど、あんまりにも、その彼女が美しすぎて、完璧で、衝撃的で、彼女が通り過ぎたあと誰もいないその道に立ち尽くしてしまったのよ、

 

 

 

しばらく呆然としていたけれどハッと我に返ったときに、彼女を見る前に持っていた気持ちが、より生々しく感じられてしまった、「死んでしまいたい」が具体性を帯びてしまった、それは私の手をぐにゃりと掴んでぬるぬると脳みそに回っていった、私は一生あんな美しいお人形さんのようには、なれないのだ、と、私は一生抜け出せないのだと、理想とかけ離れた自分を、毎日幾度となく再認識させられてしまうのよ、毎日毎日毎日、終わりがないのよ、

 

少し疲れてしまったから、意識を外に追いやろうと思うわ。